Uro Care泌尿器の健康ポータル

子どもの睾丸が下りていない:停留精巣とは

赤ちゃんや子どもの陰嚢に精巣が触れない停留精巣について、移動性精巣との違い、超音波の役割、手術時期、将来の妊孕性と精巣がんリスクを解説します。

2本の緩やかな軌道上に丸い紙の小石があり、一方は下の受け皿へ収まり、もう一方は高い位置に留まることで停留精巣を表した概念図
子どもの身体や精巣を直接描かず、左右で下降する位置が異なる状態を、2つの軌道と高さの違う紙の小石で表現しています。© Uro Care 医学編集部
01

精巣が陰嚢へ下りるまで

精巣は胎児期にお腹の中で作られ、妊娠後半に鼠径管を通って陰嚢へ下ります。出生時に片側または両側の精巣が陰嚢内へ達していない状態が停留精巣です。正期産児の約1〜4.6%、早産児ではより高い割合でみられます[1][2]。

出生後の数か月には自然下降が起こり、1歳頃には約1%まで減ります。特に修正月齢6か月までに陰嚢へ下りなかった精巣は、その後の自然下降が期待しにくくなります。

陰嚢は体温より少し低い環境を保つ場所です。精巣が鼠径部や腹腔内に長くとどまると、生殖細胞の発達へ影響します。停留精巣の治療時期が乳児期へ早まってきた背景には、この温度と発達の関係があります。

02

触知できるかで術式が変わる

停留精巣は、診察で鼠径部などに触れる「触知可能」と、どこにも触れない「非触知」に分けられます。触知可能な精巣は鼠径管内や陰嚢のすぐ上にあることが多く、位置と動きから手術方法を考えられます。

非触知精巣には、腹腔内にある精巣、鼠径管の奥にある精巣、胎児期の血流障害などで小さくなった精巣、もともと形成されなかったケースが含まれます。触れないという1つの所見の中に、複数の状態があります。

両側とも触れず、尿道下裂など外性器の特徴を伴う新生児では、ホルモンや染色体を含む別の評価が加わります。片側だけ触れない時は、手術時に位置、精巣動静脈、精管を確認します[1][2]。

03

移動性精巣と停留精巣を触診で分ける

子どもは寒さや緊張で精巣挙筋反射が強く働き、陰嚢内の精巣が鼠径部へ引き上げられます。手でゆっくり陰嚢まで下ろし、しばらくその位置にとどまる精巣は移動性精巣と呼ばれます[5][6]。

停留精巣では陰嚢まで届かない、または下ろしてもすぐ高い位置へ戻ります。診察室の温度、子どもの姿勢、緊張で位置が変わるため、仰向けに加えてあぐらに近い姿勢や入浴時の様子が参考になります。

移動性精巣の一部は成長とともに上昇し、後天性停留精巣へ変わります。報告では約32%が上昇した集団があり、移動性精巣は後天性に上昇するため、思春期まで位置を追います[5]。

04

術前超音波より触診を優先する理由

陰嚢で精巣を触れない時も、最初の評価は温かい室内での丁寧な触診です。AUAとEAUは、停留精巣の初期評価に一律の超音波やMRIを用いず、触診結果から手術方法を決めるよう示しています[1][2]。

鼠径部の脂肪や小さなリンパ節が精巣に似て見え、腹腔内の小さな精巣は超音波で描出しにくい特徴があります。「見えない」という結果から精巣が存在しないと判断できず、最終的な手術方針も変わりにくいためです。

診察では、陰嚢の左右差、鼠径部で触れる組織、精巣を陰嚢へ動かせるかを確かめます。非触知の場合には、全身麻酔で反射が緩んだ状態の触診と腹腔鏡が、精巣と血管を直接確認する方法になります[6]。

05

修正月齢6か月から手術時期を決める

出生後に自然下降する時期を待ち、修正月齢6か月でも陰嚢内へ下りていない場合には、手術へ向けた評価が始まります。EAUは6か月から治療を開始し、12か月まで、遅くとも18か月までに完了することを勧めています[2]。

精子のもとになる生殖細胞は乳児期から変化し、停留した高い温度環境では発達への影響が時間とともに増えると考えられています。年齢と手術後の精巣発育を検討した研究も、早い時期の精巣固定術を支持しています[4]。

修正月齢6か月という時期は、自然下降を待てる期間と、生殖細胞の発達を守るために手術を始める時期を両立させて定められています。

9か月と3歳で手術する群を比べた無作為化試験では、早期手術群で精巣容積の成長が良好でした[7]。追跡研究でも内分泌・形態指標は早期手術を支持しており[8]、自然下降を待つ期間と生殖細胞を守る期間の均衡から、1歳前後までの固定術が計画されます。

06

鼠径部手術と腹腔鏡

鼠径部に触れる精巣では、鼠径部または陰嚢の小さな切開から精索を周囲組織より外し、長さを確保して陰嚢内へ固定します。開いたままの腹膜鞘状突起があれば、鼠径ヘルニアを防ぐため同時に処理します。

非触知精巣では腹腔鏡で腹腔内を観察し、精巣の位置、精巣動静脈、精管を確かめます。血管の長さが十分なら1回で陰嚢へ下ろし、高い腹腔内精巣では血流を保つ方法を工夫しながら2段階で行います[1][2]。

非常に小さく機能が期待しにくい精巣や、血管と精管が途中で終わる退縮精巣では、固定より摘除や組織確認が選ばれます。手術名は同じ精巣固定術でも、精巣の位置と血流により内容が変わります。

07

片側・両側で異なる将来の妊孕性

片側停留精巣では、反対側の精巣が陰嚢内で発達するため、成人後に父親となる割合は一般集団と大きく変わらないとする報告があります。精液検査の数値や生殖細胞の指標には低下がみられます[1][2]。

両側停留精巣では、両方の精巣が高い温度環境へ置かれるため、精子数低下や不妊との関連が強くなります。早期手術は生殖細胞が発達しやすい陰嚢内の環境を早く整えますが、将来の妊娠率には元の精巣形成も関わります。

精巣固定術後も、元の精巣形成や位置、両側性による影響は残ります。手術後も元の精巣形成による影響は残りますが、陰嚢内へ固定することで発育と触診による観察を続けやすくなります。

08

精巣がんリスクと早期手術

停留精巣の既往は、将来の精巣がんと関連します。スウェーデンの大規模研究では、13歳より前に精巣固定術を受けた群の相対リスクは2.23、13歳以降では5.40でした[3]。

早い手術は精巣がんリスクを下げますが、一般集団より高いリスクは術後も残ります。精巣を陰嚢内へ固定すると、成長後に本人が触れて変化を知りやすくなり、診察や超音波で観察しやすくなります。

思春期以降は、左右差、硬いしこり、急な腫れを確認できる陰嚢内の位置が早期発見に役立ちます。がん予防と早期発見は別の役割を持ち、精巣固定術はその両方に関わります。

09

精巣下降を目的としたホルモン治療の位置

hCGやGnRHによる下降成功率は低く、再上昇もあります。AUAとEAUは、通常の片側停留精巣に精巣固定術を標準治療として示しています[1][2]。

両側停留精巣に対し、将来の精子形成を目的としたGnRH治療を検討する考え方は地域やガイドラインで差があります。精巣を陰嚢へ移す標準治療は精巣固定術です。

薬で下ろせるかを長く試すほど手術時期が遅くなる可能性があり、自然下降を待つ修正月齢6か月までの期間と、その後の治療計画を分けて考える必要があります。

10

術後に追う位置と発育

精巣固定術後には、精巣が陰嚢内の低い位置へ保たれているか、大きさと硬さがどのように変化するかを確かめます。血流が乏しい高位精巣では、手術後に小さくなる可能性があり、左右の成長差が経過の手掛かりになります。

乳幼児期に固定した精巣は、体の成長に伴って相対的に高く見えます。精索の長さが足りず再上昇するケースと、陰嚢の発達による見え方の変化を触診で区別します。

思春期には精巣容量が増え、将来の自己観察へ移る時期です。術後は、乳幼児期の位置、学童期の発育、思春期の左右差を順に追い、固定した精巣の状態を評価します。

11

まとめ

停留精巣は、胎児期にお腹から陰嚢へ下る精巣が、出生後も鼠径部や腹腔内にとどまった状態です。修正月齢6か月までに自然下降する精巣もありますが、その時点で陰嚢内にない精巣は自然に下りる可能性が小さく、12か月頃までの精巣固定術を計画します。診断は触診から始めます。超音波で精巣を描出できない時も、腹腔内または鼠径管内に精巣が存在し得ます。手で陰嚢まで下ろしてとどまる精巣は移動性精巣です。後から上昇することがあるため、思春期まで位置を追います。早期手術は発育環境を整え、精巣がんリスクを下げますが、両側性や元の精巣形成による影響は残ります。