漏れた瞬間の状況を、短い言葉で記録します
尿漏れを気にして、咳や運動、外出を避けるようになっていませんか?
咳、くしゃみ、走る動作で漏れるのは腹圧性尿失禁、急な尿意に間に合わないのは切迫性尿失禁です。両方が起きる混合性尿失禁もあります。膀胱が満杯になり少量ずつあふれる溢流性尿失禁、移動・認知・衣服の問題でトイレへ間に合わない機能性尿失禁は、必要な対策が異なります。
日本人女性の調査では、尿失禁は加齢、出産歴、体格などと関連しました[1][2]。診察では年齢より、尿意が先に来たか、腹圧が加わったか、排尿後も下腹部が張るか、トイレまで安全に移動できたかを聞きます。「玄関の鍵を開けると漏れる」「立ち上がった瞬間」「夜だけ」など、実際の場面を記録すると、治療したい尿もれの種類がはっきりします。
3日間の日誌で、回数より場面を見ます
排尿日誌には排尿時刻と1回量、尿意の強さ、漏れた時刻と動作、飲水を記します。腹圧がかかった直後か、トイレへ向かう途中か、睡眠中かが分かると分類の確度が上がります。パッド枚数は交換の習慣に左右されます。漏れた量を詳しく知る必要があれば、一定時間の使用前後でパッド重量を測ります。
診察では、膀胱にある程度尿がたまった条件で咳ストレステストを行い、骨盤臓器脱、外陰部・腟粘膜、骨盤底筋の収縮と弛緩、神経所見を確認します。膀胱が空に近い状態の咳テストは、再現性が下がります[3]。問診票の点数、日誌、診察所見が同じ型を示すかを見て、腹圧性と切迫性が混ざる例では本人が最も困る場面を決めます。
尿検査と残尿測定は、治療前に済ませます
尿検査では感染と血尿を確認します。感染があれば治療後に尿もれが戻るかを見ます。排尿後残尿は超音波で測り、膀胱内にどれほど尿が残っているかを確かめます。多量残尿がある人へ膀胱収縮を抑える薬を追加すると、排尿困難が強くなる可能性があります。
残尿量は排尿した量、便秘、緊張、測定までの時間で動きます。症状と数値が合わない場合は条件を整えて再測定します。血尿や反復感染、強い排尿困難、骨盤手術歴、神経疾患がある人では、疑う病態に合わせて超音波、膀胱鏡、尿流動態検査を追加します。混合性尿失禁で手術後の変化を予測しにくい人や、過去の手術後に症状が続く人では、尿流動態検査が治療選択へ情報を加えます。
腹圧性尿失禁では、骨盤底を正しく動かします
腹圧性尿失禁の保存療法では、骨盤底筋訓練を中心に行います。系統的レビューでは、無治療と比べて治癒や改善を得やすいことが示されています[4]。息を止めて腹筋や殿筋を固める動きは、目的とする収縮と異なります。排尿中に毎回尿を止める方法も日常の訓練には使いません。
診察や理学療法で、尿道・腟・肛門の周囲を内側へ持ち上げる感覚を確認します。ゆっくり保つ収縮と、咳の直前に行う素早い収縮を組み合わせ、少なくとも3か月を目安に続けます。自分で収縮を捉えにくい人、骨盤底が痛く硬い人、術後例では個別指導の価値が高まります[5]。過体重・肥満女性を対象にした無作為試験では、減量に伴う尿失禁回数の減少も示されました[6]。
急な尿意による漏れは、我慢の仕方を練習します
切迫性尿失禁では、尿意が来た瞬間に走らず、立ち止まって呼吸を整え、骨盤底を数回短く収縮させます。尿意の波が弱まってから歩きます。排尿間隔は日誌で確認した無理のない時間から少しずつ延ばし、便秘とカフェイン・アルコールの影響も確かめます。
抗コリン薬では口渇、便秘、認知機能への影響、残尿増加を、β3作動薬では血圧と薬物相互作用を確認します。緑内障、腸管運動、認知機能、血圧、腎・肝機能、併用薬を見て選びます。4〜8週間後に尿漏れ回数、切迫感、夜間排尿、外出制限を比較します。効果が足りない場合は、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入、脛骨神経刺激、仙骨神経刺激を検討します[7][8]。ボツリヌス治療前には尿路感染と一時的な自己導尿の可能性を共有します。
手術で治したい場面を、先に決めます
保存療法を続けても腹圧性尿失禁が仕事、運動、外出を制限する場合は、尿道中部スリング手術などを検討します。メッシュを用いる術式、自家筋膜スリング、尿道充填剤には、侵襲、効果の持続、排尿困難、再治療の可能性に違いがあります。妊娠希望、骨盤臓器脱、骨盤放射線歴、過去の手術も選択へ反映します。
咳での漏れが確認できても、本人が最も困っているのが急な尿意なら、腹圧性手術後にも切迫症状が治療課題として残ります。混合性尿失禁では、運動時の漏れと切迫性の漏れを別々に数えます。手術前には、改善を期待する場面、術後の排尿困難、新たな尿意症状、追加治療の可能性を具体的に話します。完全な無漏れという表現より、どの生活制限をどこまで減らすかを共有します。
男性では、前立腺治療歴と残尿を並べて見ます
男性の尿失禁には、前立腺全摘除後の腹圧性尿失禁、前立腺肥大症手術後の一過性漏れ、前立腺閉塞による溢流性尿失禁があります。前立腺全摘除後はパッド量、術後期間、放射線治療歴、尿道狭窄、切迫性症状を確認します。骨盤底筋訓練で回復を支え、持続例では男性スリングや人工尿道括約筋を検討します。
尿勢が弱く、下腹部が張り、少量ずつ漏れる男性では、最初に残尿を測ります。溢流性の状態へ膀胱を緩める薬を加えると尿閉が悪化します。人工尿道括約筋を選ぶ際は、手でポンプを操作できるか、放射線による組織変化、感染やびらんの危険、再手術の可能性を確認します。前立腺治療から現在までの時間経過が、女性の尿失禁とは異なる情報を与えます。
急な変化と機能性尿失禁は、薬の外側を見ます
急に排尿できなくなって少量ずつあふれる、下腹部が張る、会陰部の感覚が鈍い、両脚に力が入らないという変化には、尿閉や馬尾障害が含まれます。当日中の評価が必要です。発熱、側腹部痛、意識変化が加われば尿路感染を調べます。肉眼的血尿を伴う漏れは、出血源の評価も同時に行います。
高齢者でトイレまでの移動に間に合わない場合は、動線、照明、便器の高さ、衣服、歩行補助具、定時排尿を調整します。認知症や介助が必要な人では、本人の羞恥、転倒、皮膚障害を減らす方法を介助者と決めます。膀胱機能が保たれていても起きる機能性尿失禁には、環境調整が直接効きます。
パッドと皮膚ケアで、治療中の負担を減らします
吸収用品は漏れ量、日中の活動、夜間、皮膚状態に合う製品を選びます。大きな製品を長時間使い続けると蒸れや接触皮膚炎が増えるため、漏れ量に合う吸収量と交換間隔を設定します。皮膚は強くこすらず洗い、十分に乾かし、必要に応じて皮膚保護剤を使います。
パッド枚数は治療経過の参考になりますが、交換の頻度が変わると漏れ量を正しく表せません。外出時と在宅時を分け、必要な場合は使用前後の重量差を測ります。臭いを抑えようとして飲水を減らすと、濃縮尿と便秘が悪化します。骨盤底筋訓練、薬、手術の効果を待つ期間にも、皮膚障害、睡眠、外出不安を軽くする余地があります。
まとめ
尿失禁は、咳や運動で漏れる腹圧性、急な尿意による切迫性、残尿があふれる溢流性、移動や認知の影響による機能性に分けます。3日間の日誌へ漏れた場面を書き、尿検査、咳ストレステスト、残尿測定を組み合わせます。腹圧性には正しい骨盤底筋訓練、切迫性には尿意の対処、膀胱訓練、薬を選びます。急な尿閉、会陰部のしびれ、両脚の脱力、発熱を伴う変化は当日中に評価します。パッドと皮膚ケアも治療の一部です。
参考資料
- [1] Onishi A, et al. Prevalence and sociodemographic correlates of urinary incontinence in Japanese women. 2023. ↗
- [2] Azuma R, et al. Prevalence and risk factors of urinary incontinence and its influence on the quality of life of Japanese women. Nurs Health Sci. 2008. ↗
- [3] Swift SE, Yoon EA. Test-retest reliability of the cough stress test in the evaluation of urinary incontinence. Obstet Gynecol. 1999. ↗
- [4] Cacciari LP, et al. Pelvic floor muscle training versus no treatment for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2019. ↗
- [5] Kharaji G, et al. Supervised versus unsupervised pelvic floor muscle training. 2023. ↗
- [6] Subak LL, et al. Weight loss to treat urinary incontinence in overweight and obese women. N Engl J Med. 2009. ↗
- [7] EAU Guidelines on Non-neurogenic Female LUTS. 2026. ↗
- [8] AUA/SUFU Guideline on Idiopathic Overactive Bladder. ↗



