不妊治療で手術を考えるのは、触知所見と精液異常がそろう時です
精索静脈瘤は、精巣から腹部へ戻る静脈が陰嚢内で拡張した状態です。立位で血管のふくらみを触れる、夕方に陰嚢が重い、不妊検査で見つかるといった経過があります。成人男性に広くみられ、正常な精液所見を保つ人も多くいます。
米国と欧州のガイドラインでは、妊娠を希望し、触診で分かる精索静脈瘤があり、精液検査に異常を認める男性が修復術の主な候補です[1][2]。女性側の妊孕性と待てる期間も確認します。静脈径だけで手術を決めず、触診、精巣体積、複数回の精液検査、不妊期間をそろえます。
超音波だけで見つかった触知不能の静脈拡張は、原則として修復術の対象から外れます。触診できない病変を修復して妊娠率が上がる根拠は乏しく、触知所見、精液異常、不妊期間をそろえて適応を検討します[1][2]。
左側に多い背景には、精巣静脈の走行があります
左精巣静脈は上行して左腎静脈へほぼ直角に流れ込み、右側は下大静脈へ比較的まっすぐ合流します。左側では血液の柱が長く、静脈圧が上がりやすい解剖学的条件があります。左腎静脈の圧迫も逆流へ関与します。
右側だけに急に大きな静脈瘤が現れた、横になっても縮まない、腹部症状を伴う場合は、後腹膜や腹部で静脈還流を妨げる病変を確認します。典型的な左側慢性例と、急な右側例では追加画像の必要性が違います。
静脈うっ滞は、温度・酸化ストレス・精巣環境へ影響します
精巣は体温より低い環境で精子を作ります。陰嚢の静脈網は精巣へ向かう動脈血を冷やす熱交換に関わり、静脈の拡張と逆流によって精巣周囲温度が上がると考えられています。低酸素、酸化ストレス、精巣内ホルモン環境の変化も精子の数、運動、DNAへ影響します[2][3]。
精索静脈瘤があっても正常精液を保つ人がいるため、治療前に精子濃度、総運動精子数、形態を複数回測ります。精巣体積、喫煙、肥満、高熱、薬剤など精子形成へ影響する別の因子も確認します。
立位触診と腹圧で、臨床的静脈瘤を確認します
診察は立位で行い、安静時と腹圧をかけた時に拡張静脈を触れます。腹圧時のみ触れる、安静時にも触れる、皮膚越しに見えるという順にグレードが上がります。超音波では静脈径、バルサルバ負荷時の逆流、左右の精巣体積を測ります。
触診で分からず超音波だけに逆流を認める所見はサブクリニカル精索静脈瘤です。妊孕性改善を目的とする手術は、主に触知できる静脈瘤へ行います[1][2]。超音波は不明瞭な触診、左右差、精巣体積、別の陰嚢病変を補います。
診察は暖かい室内で立位と臥位の両方を行います。立位で静脈が目立ち、臥位で縮小する所見が典型です。急に出現した右側優位の静脈瘤や、臥位でも消えない病変では、腹部・後腹膜の静脈閉塞も検討します。
自然妊娠率の改善は、カップルの条件から見積もります
精索静脈瘤修復を無治療と比べたメタ解析では、術後の自然妊娠率が高くなる傾向が示されました[4]。触知静脈瘤と精液異常を持つ不妊男性の無作為試験でも、手術群の妊娠成績が観察群を上回りました[6]。研究ごとに手術法、精液所見、女性側年齢が異なり、個人の絶対利益には幅があります。
女性側の年齢が若く、卵管・排卵が保たれ、男性側の精液異常が軽度〜中等度なら、手術後の改善を待ちやすくなります。卵巣予備能が低い、女性側年齢が高い場合は、採卵や体外受精と男性側手術の順番を同時に決めます。
手術利益は女性側年齢で大きく変わります。自然妊娠を待てる期間が短い時は、修復術後の精液改善を待つより、生殖補助医療を並行する選択があります。精液所見が改善しても妊娠まで保証されないため、カップル単位で予定を決めます。
精液所見は、術後3〜6か月から比較します
精子は精巣内で作られ、精巣上体で成熟して射出されるまで約3か月かかります。術後早期の精液には治療前から作られていた精子が含まれます。精液検査は3か月、6か月、その後の必要な時期に行います。
系統的レビューでは、精子濃度、総精子数、運動率、形態率が術後に改善する傾向を示しました[3]。DNA断片化の改善もメタ解析で示されていますが、検査法と研究集団にはばらつきがあります[7]。1項目の変化に加え、総運動精子数が自然妊娠や人工授精を考えられる範囲へ動いたかを確認します。
顕微鏡下低位結紮術では、動脈とリンパ管を温存します
顕微鏡下低位結紮術は、鼠径部より下で精索を展開し、拡大視野で逆流静脈を閉じる方法です。精巣動脈を残して血流を守り、リンパ管を残して術後陰嚢水腫を減らします。外精巣静脈や挙睾筋静脈など逆流枝を確認し、再発を抑えます。
腹腔鏡手術や血管内塞栓術にも適する場面があります。男性不妊を目的とする治療では、顕微鏡下手術が低い再発率と合併症率を示す方法として用いられます[1][2]。術式名に加え、動脈・リンパ管温存、再発、陰嚢水腫の違いを確認します。
顕微鏡下手術では、精巣動脈とリンパ管を温存しながら拡張静脈を処理します。動脈損傷、陰嚢水腫、再発が主な合併症です。術後早期の腫れと再発を区別し、触診や超音波は創部が落ち着いた時期に行います[5][6]。
生殖補助医療を予定する場合も、修復術の効果が検討されています
精液所見の改善後は、顕微授精から通常の体外受精、体外受精から人工授精への変更を再検討します。生殖補助医療を受ける男性のメタ解析では、事前に精索静脈瘤を治療した群で臨床妊娠率と出生率が高い傾向を示しました[5]。
観察研究が多く、手術を選んだ背景の差を含みます。手術後3〜6か月を待つ利益と、女性側年齢による妊娠率低下を比較します。採卵を先に行い胚を確保する、手術後の精液改善を待って採精方法を再評価するなど、両者を並行できる場合もあります。
陰嚢痛では、立位・運動・臥位による変化を確認します
精索静脈瘤による痛みは、立位や運動で強くなり、横になると軽くなる鈍い重さとして現れる傾向があります。鋭い瞬間痛、触れるだけで強い痛み、鼠径部や腰から広がる痛みには、精巣上体炎、鼠径ヘルニア、神経痛、筋骨格系の原因を加えます。
陰嚢支持や活動調整を行っても静脈瘤に合う牽引痛が続く場合は、手術による改善を検討します。痛みを対象としたレビューでも高い改善率が示されましたが、別の関連痛を除外した候補選択が前提でした[8]。術前に、どの動作の痛みを評価するかを具体的に記録します。
痛みを主訴とする場合は、鼠径ヘルニア、精巣上体炎、骨盤底筋痛、神経痛も確認します。鈍い重さが立位や運動で増え、臥位で軽くなる経過は静脈瘤に合います。鋭い持続痛では、手術後も痛みが残る可能性を説明します。
まとめ
精索静脈瘤の修復術は、妊娠希望、触知できる静脈瘤、異常な精液所見がそろい、女性側の妊孕性を踏まえて待てる期間がある場合に検討します。超音波のみの逆流は、妊孕性手術の主な対象とは分けて扱います。顕微鏡下手術では逆流静脈を閉じ、精巣動脈とリンパ管を温存します。精液所見は術後3〜6か月から比較し、自然妊娠、人工授精、体外受精のどこへ変化が生じたかを確認します。
修復術の成績は、精液検査の数値と妊娠・出産の結果を分けて確認します。術前値、術後3か月、6か月の総運動精子数を同じ採取条件で比べ、改善が乏しい時は生殖補助医療の方法を再検討します。
参考資料
- [1] Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline. Amended 2024. ↗
- [2] EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health. Male Infertility. ↗
- [3] Agarwal A, et al. Impact of Varicocele Repair on Semen Parameters in Infertile Men: A Systematic Review and Meta-Analysis. World J Mens Health. 2023. ↗
- [4] Birowo P, et al. The benefits of varicocele repair for achieving pregnancy in male infertility: a systematic review and meta-analysis. Heliyon. 2020. ↗
- [5] Kirby EW, et al. Varicocele repair prior to assisted reproductive technology: patient selection and special considerations. Fertil Steril. 2016. ↗
- [6] Abdel-Meguid TA, et al. Does Varicocele Repair Improve Male Infertility? An Evidence-based Perspective from a Randomized, Controlled Trial. Eur Urol. 2011. ↗
- [7] Qiu D, et al. Efficacy of Varicocelectomy for Sperm DNA Integrity Improvement: A Meta-analysis. Andrologia. 2021. ↗
- [8] Owen RC, et al. A Review of Varicocele Repair for Pain. Transl Androl Urol. 2017. ↗



